一切れのパン

 戦時下、逃亡生活を余儀なくされる一人の男。
 食べることもままならず、毎日ひどい飢えに苦しんでいた。
 その道中、偶然出会った旅人から、ハンカチに包まれた一切れのパンを手渡される。
 感謝の言葉を述べる男に、旅人はこう言った。

 「貴方に一つだけ忠告しておきます。
 そのパンは直ぐに食べず、できるだけ長く保存するようになさい。
 パン一切れでも、持っていると思うと、とても我慢強くなれるものです。
 まだこの先、あなたはどこで食べ物にありつけるか分らない。
 パンは、ハンカチに包んだまま、決して開けてはいけません。
 その方が、食べようという誘惑に駆られなくてすむ。
 私も今まで、そうやって持って来ました。」

 それから先も、幾多の困難に見舞われる。
 男は、何度も「もはやこれまで」と観念し、ポケットの中のパンを取り出した。
 しかし、その度に旅人の忠告が甦る。

 「いや、このパンを食べてはならない。
 今はこの一切れのパンだけが、俺に力を与えてくれる。
 立ち上がって歩き出さなければならない。」

 長い月日を経て、男は遂に旅を終え、自宅に帰り着く。
 歓喜する家族。
 「これが、自分を救ってくれたんだ。」
 そうやって、妻へと差し出したハンカチ包みの中から、一かけらの木片が転がり落ちた。
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プロフィール

Hideo Matsuoka

Author:Hideo Matsuoka
・生年月日 昭和37年10月30日

・好きな言葉 
今日は残された人生の最初の一日

・信条「先憂後楽」

・尊敬する人 
稲盛和夫 西川広一 松下幸之助

・資格 ①宅地建物取引士
    ②建築2級施工管理技士
    ③マンション管理業務主任者
    ④防火管理者
    ⑤少額短期保険募集人
    ⑥損害保険募集人
    ⑦損害保険商品専門総合
    ⑧不動産キャリアパーソン
・趣味
 劇団AUGAHANCE初代代表
 主に脚本・演出を担当

・経歴 
 中卒後、大工・石工と職人道を歩む
 平成2年 
 ㈱中岡組 (ジョーコーポレーション)入社
 マンション担当役員→常務執行役→管理会社代表を歴任
 平成21年 ㈱NYホーム起業

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